原発は是か非か。 少なくとも私が見ている世界ではその議論は盛り上がっているように見えます。安全か危険か、あるいは、便利で快適な生活のためにどこまでリスクを取るのか。感情論で議論する人達も入れば、数字を出して議論をしている人達もいます。数字を出している人は例えば我らが
池田信夫 センセーがその代表でしょう。
この手の人の主張は
a=原発推進で得られる成長-原発事故が起きる確率×原発事故で生じる経済損失
b=原発廃止で得られる成長
とした場合に、
だから、原発を推進するべきだ、というものです。要は「原発止めたら便利で快適な生活を諦めることになるけど、反原発の皆さんはそれでいいの? 」ということですね。まあ、実際にはここで「非原発だけでもまかなえる」とか「自然エネルギーにシフトすべし」とかいう脳内お花畑の皆さんが絡んできて、池田信夫センセーの「煽って稼ぐ乞食クリック芸」は大成功するわけですが。
それはさておき、 池田信夫センセーによる一連の「原発必須論」には同意する部分が多いです。正確には「電気に限って言えば」ですね。だけど、電気だけ確保すれば私たちの生活は安泰なのでしょうか?
電気はエネルギーの輸送手段 でしかありません。私達は電気を使ってモーターを回したり、空気を暖めたり冷やしたり、コンピュータを動かしたりする程度のことしかできないのです。理論的にはエネルギーから物質を作れるらしいのですが、人類がその領域に到達するのにはまだまだ、ま〜だまだ時間がかかることでしょう。つまり、電気だけでは鉄もアルミもゴムも繊維も作れない。電気は材料にはならないのです。
池田信夫センセーら原発必須論者 の言うとおりにすれば、私達は電気には不自由しないかもしれません。でもどこかで石油は枯渇し、石油を原料としていたプラスチックや合成ゴムは入手できなくなることでしょう。もちろん、再生・再利用すれば当面はしのげるかもしれませんが、どこかで限界が来ます。つまり、いくら原発を推進したところで「電気は安いのに、タイヤや絶縁用被覆素材が馬鹿高いから電気自動車が高嶺の花に 」なんていう事態になるわけですよ。
あるいは大量輸送手段。 私は専門家ではないのでわかりませんが、電気旅客機なんてできるんですかね? Airbus A380EP、みたいな。あってもあまり乗りたいとは思いませんが。その昔、
原子力飛行機 などという構想もあったようですが、問題が多すぎて開発は断念されたようです。原子力専門家の池田信夫センセーの論評も聞いてみたいところではあります。
大型船は原子力を活用 することも可能なのでしょうが、軍用技術を民間に開放していいのか、という問題は付いて回るでしょう。あるいは昔みたいに帆船に戻るという選択もありますが、それでタンカー並の貨物や人を運べるのかどうかは専門外なのでわかりません。なんでも専門家の池田信夫センセーの論評も聞いてみたいところではあります。
いくら電気が安くても 、長距離移動や大量輸送に今よりも時間あるいはお金がかかるようになると、世界の経済は今の姿と随分変わってくるのではないかと思えるのです。経済ブロック化の進行。不均衡拡大。等々の心配をせずに「原発がないと便利で快適な生活はできなくなるよ」と脅してくるのはなんか間抜けな気もします。「いやいや心配することはない石油もプラスチックも合成ゴムもいつまでも安泰だよ」、というのであれば別に原発なんかに頼らず化石燃料だけ使えばいいわけですし。
VIDEO
上の動画は バクテリアが増殖する様子です。「一秒ごとに倍に増えるバクテリア」がいるとします。最初の一秒で二個体に。次に4個体...と一秒ごとに倍になっていきます。試験管の半分まで増えると...次の一秒で増殖する余地はなくなります。一秒前に「大変だ! もう住む場所がない!!」と騒いでももう遅い。たぶん、試験管の1/4を占めた時点で気づいても手遅れでしょう。残り2秒しかないわけですから。1/8でも残り3秒。
もちろん、人間はバクテリアではないので増加速度はもっとゆっくりしています。それでも、7%成長を10年続ければほぼ「二倍」になります。「大丈夫。あと二倍までは余裕だよ。」と思っている資源でも、需要が7%の勢いで伸びていけば10年で枯渇するわけです。そしてそれは、化石燃料に限った話ではありません。程度の差は色々あるでしょうが、あらゆる資源に言えることでしょう。成長を維持すればやがて資源は枯渇する。成長を早めれば枯渇までの時間も短くなる。
にも関わらず 、「原発で電気作り続ければ全て良し」とう主張をされる池田信夫センセーみたいな皆さんには、試験管の中で「まだ75%も空きがあるから問題ないぜ〜」と増殖に勤しむバクテリアが重なって見えるのでございます。
あとは国家の負債 とか。これもどこかで限界が来るのでしょうけど「まだまだ先」と思っていたのが試験管の中のバクテリア的に「気づいたときはもう回避不能」なんていう事態になるのでしょう。自称経済学者の池田信夫センセーにおかれましては、本業に回帰されて、この手の経済話に絞っていただきたい。そしてこれ以上原発に関する対立を煽らないよう強くお願いする次第でございます。